予選(終焉)

約4時間をかけて争われた本選出場への切符を懸けた戦いは、あと一名の敗退者を決めるのみとなりました。

誰しもがここまで上り詰めたからにはその一名にはなるまいと緊迫した攻防が続いていたものの、たった一度のブラインド・スチールを失敗したボウズ君が一気に窮地に追い詰められてしまいました。

しかしながらその後、彼の死に物狂いのオールインを受け、圧倒的有利だった私の「10のペア」の手札を無効化するストレートの手役で引き分けにもつれ込まれ、もう一度彼と勝負するプレイヤーが現れるのを待たなければなりませんでした。

ところが、その機会は何と次のゲームでやって来たのです。

《全員のポジション》
 SB(スモールブラインド):自分
 BB(ビッグブラインド):お兄さん
 UTG(アンダー・ザ・ガン):ボウズ君
 HJ(ハイジャック):メガネ君
 CO(カットオフ):おじさん
 BU(ディーラーズ・ボタン):女性

自分とお兄さん(以前、私のスチールで「J,J」の手札でフォールドした人)がブラインド・ベットとして、それぞれ2,000点、4,000点を手札の良し悪しに関係なく提示した状態からゲーム開始です。

手札を元に最初に行動するのは「アンダー・ザ・ガン」のポジションとなるボウズ君です。

彼は既に持ち点が10,000点程度しかなく、次のゲームではビッグ・ブラインドの担当が回ってくるため、少なくともこの2〜3ゲーム中に勝負を仕掛けなければならないでしょう。

何せ両方のブラインドを担当するだけで6,000点を自動的に失うのですから、ブラインド通過後に残った4,000点程度では他の5名全員に勝負を受けられ、9割負けが決まります。

したがって、今回最後の勝負に出てチップを増やしに行くのか、持ち点が極限まで少なくなった状態の半強制的な勝負で奇跡的に生き返るのを待つかのいずれを選択しなければならない筈です。

予想通り、彼は手札を見るや否や「オールイン」を宣言してきました。
全員がフォールドしてくれれば、私とお兄さんのブラインド・ベット+アンティで合計9,000点が無条件で手に入るのですから・・・

しかし、その発声の直後、思わぬところから勝負が成立しました。
次に座っていたHJ(ハイジャック)のメガネ君が、ほとんど悩まずに「コール」で勝負を受けたのです。

「悩まない」ということは、ガチの勝負手が入ったことを意味します。

次のCO(カットオフ)のおじさんは、そそくさとフォールドし、続く女性もフォールドとなりました。

いよいよ自分が手札をジリジリとせり上げ、中身を覗きます。

一枚目が・・・










何と「A!!

前回のゲームに続き、勝負できそうな手札かもしれません。

続く二枚目は一枚目のカードをずらして見ていきます・・・
否応なしに力が入ります。











こちらは「6・・・

「A,6という強くも弱くもない、微妙な手札となってしまいました。

自分が推測するにメガネ君の手札は「ペア」もしくは「絵札二枚」、エースと高い数位の組み合わせとなる「ハイエース」のいずれかでしょう。

この時点で最初に考えたのは、ボウズ君のチップさえ誰かが奪い取ればゲームが終了するため、無条件でコールして後はショウダウン(手札の公開)まで全員で進むという作戦です。

一般的にはこういった一人だけを倒したい場面ではこの作戦がセオリーとなりますが、仮に運良くボウズ君が勝利してしまうとメガネ君か自分が次の敗者への標的となることは間違いありません。

また、自分の次に続くお兄さんもこの作戦に賛同して、どんな手でもコールしてくれるかどうかは分かりません・・・

しかしながら、彼は「J,J」でフォールドするくらいタイトなプレイヤーで、このゲームの目的を良く分かっていることと、仮に今回の勝負で負けて(=ボウズ君に勝たれて)も、先にブラインドが回ってくるのがメガネ君だったことを確認して、私も続いて「コール」することを決断しました。

すると、BB(ビッグ・ブラインド)のお兄さんも即座に「コール」し、3対1でボウズ君に引導を渡そうと羽交い絞めのような状態になりました。

ボウズ君と同額のチップを他の三人が出した後、ディーラーは静かに場札を開示します。

最初の三枚は・・・

「3, Q, 6

何と「6」がペアになりました。

このまま逃げ切ってくれよ・・・と心の中で祈ります。






次のカードが「2、そして最後のカードが「Q

これで全てのカードが出ました・・・






もちろんボウズ君以外の3人が追加でチップを出して勝負をすることは一切ありません。3人のうち、一人が彼を倒せば目的は達成されるのですから。

いよいよショウダウンです・・・






まず最初にメガネ君の手札を開くと「A ,10

手札は強いもののペアが無く、心もとないです。

自分は「6」がペアになったまま変化なし。

お兄さんの「K, 5で特に有効な手札にはなりませんでした。

そして、ボウズ君のカードが本人によって開かれます。

そのカードは・・・・・・・・・・・・



「J,10でした。

結局、自分の「6」のペアが最も強い手役となり、ようやく長き戦いに終止符が打たれたのです。

その瞬間、見事生き残った5名の緊張が緩み、勝利の実感を掴み取ると同時に自然と互いに握手を交わしていました。

こうして50名の参加者で行われた予選は自分を含む5名が通過を決め、今週末に行われる本選で更なる高みを目指して戦うことになります。

そしてその本選の優勝者には、何とラスベガスの「ワールド・シリーズ・オブ・ポーカー(WSOP)」に渡航費無料で挑戦できるチャンスが与えられるのです。

今回以上に長く激しい戦いとなるであろう本選ではどういったドラマが繰り広げられるのでしょうか・・・

それはまだ誰にも分からないのです。



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