予選(終盤)

参加者50名で始まった「東京予選15D」は予選通過者5名を間近に控えた、残り9名で争われることになりました。

今回の予選に別枠で出場した地元出身の友人は何と見事に入賞し、本選への出場切符をすでに手にしていました。

自分もその登竜門となるファイナルテーブルに着席し、勝負の渦中にいることが半ば信じられなかったものの、この3時間で幾多の試練を乗り越えた今は冷静に入賞だけ目指しています。

ここで試合が開始される際に改めて抽選で席決めが行われ、ちょうど真ん中の「5番」に当たりました。
テーブル中央なのでどこからも状況が良く見え、中々の一等席です。

さて、ファイナルテーブルの戦い方は今までの戦略と若干異なってきます。
このトーナメントは「クオリファイア(資格者)」を決めるのが目的のため、チップを大量に獲得して一位になるメリットが何もありません。

したがって、5位までに滑り込めれば一位と同等になり、反面6位になるとトーナメントの最初に敗退した50位と全く同じ扱いになるのです(50位よりゲームに時間を消費しているので、さらに性質が悪いともいえます)。

ですからチップは自分が生き延びる分だけあれば良く、無駄な攻撃性はココでは命取りになるでしょう。

自身は26,600点を持った状態からスタート。
チップはテーブル全体でも150,000点(3,000点×50名)しかないので、9名での平均を16,700点と考えると、現時点ではそこそこ余裕がありそうです。

しかしながら、ブラインド額は[800-1,600-200](スモールブラインド:ビッグブラインド:アンティ)から、すぐに[1,000-2,000-300]へと上昇し、いつ耐え切れなくなるか分からない程の緊迫感が押し寄せてきます。

もちろん十分な点数を持たずに卓へ上ったプレイヤーも居り、なす術なく早々に1名が散りました・・・

その後、しばらく膠着状態が続いていたのですが、「K,J」「A,10」「J,J」にぶつかる展開があり、結果「J-J-J-Q-Q」のフルハウスを完成させた「J,J」のプレイヤーが一気にチップを持つことになり、ひとまず安全圏へと入りました。

この勝負で2人が同時に敗退したため、残すプレイヤーはいよいよ6名となりました。

あと一人だけ敗者が決まれば、その瞬間生き残った全員が勝者です。
持ち点の少ないプレイヤーがいれば間違いなく標的にされるのですが、ここで微妙な展開に・・・

先ほどのフルハウスで勝った「ボウズ君」以外は持ちチップにほとんど差が無く、目立った標的が居ないのです。

このような負けないことだけを目的とした勝負では、持ち点が拮抗しているとほぼ間違いなくガチガチの硬直した展開になるのです。

それもそのはず、誰もが手持ちのチップを失うリスクのある「ベット」や「レイズ」の作戦を極力控え、無駄にチップを消費する「コール」すらも行われなくなります。

ただただ「フォールド」を繰り返すばかりで、全員が牽制状態に入りました。
もちろん時折、大変強いであろう手札でレイズが入りますが、その勝負を進んで受ける者もそうそう現れません。

しかし、その状況を打破する魔のルールが徐々に忍び寄ってきます。
そう、20分おきにディーラーより伝えられる「ブラインズ・アップ」の通告です。

次のブラインド額は[1,500-3,000-300]と、先ほどの1.5倍に跳ね上がりました。
こうなると、痺れを切らして攻めて散るか、守りに入りすぎた挙句に衰弱するかのどちらかが待っています。

それでも6名のプレイヤーは息を潜め、誰かがミスをし、持ちチップを減らして逃げ場が無くなるのをじっと待っていました。
もちろん自分もその一人です。

そこで一つの大きな場面に行き着きます。

《状況》
ポジション:SB(スモール・ブラインド)
手札:K,8
持ち点:21,500点(ビッグブラインド約7個分)

ブラインド以外の4名は全員フォールドして、自分のアクションが回ってきました。

ここで検討するのは、ポーカーにおける大きな二つの選択肢です。

 プランA:果敢にレイズして相手をフォールドさせ、ビッグブラインドとアンティの奪い取り(スチール)を試みる。
 プランB:素直にフォールドして、自身のスモールブラインドとアンティをビッグブラインドのプレイヤーに差し出す。

スチールが決まれば、しばらく持ち点は安泰ですが、反対に相手から勝負を挑まれれば不利な勝負をしなければならず、最悪な結果が待っているかもしれません。
また、フォールドは確かに安全な選択ですが、確実に持ち点を失い、次のスチールの機会はしばらくやって来ないかもしれません。

ここでの自分の選択は「10,000点にレイズ」でした(残り手持ち11,500点)。
「K,8」は確かに微妙な手で全く強くないですが、もし相手からオールインの声が掛かれば、こちらも覚悟して勝負に出るしかないでしょう(11,500点の残りだけでは確実に他者に狙われますし)。

すると、ビッグブラインドのお兄さんは長考モードに・・・

長考するということは、少なくとも勝負できる手札が来たことを意味します!!
しかし、ここで勝負に出るか否かを慎重に吟味しているのです。

ただ、彼にとって有利な勝負であったとしても100%勝てる保証は無く、仮に負けてしまうと自分が標的になるのですから慎重になるのも無理ありません。

1分近く悩んでいたでしょうか、そして彼は一つの大きな決断を下します。











何と「J,J」の手札を見せて「フォールド」したのです・・・

彼はチップを獲得するために争う敗退のリスクよりも、確実に生き残る道を選びました。
まさしく入賞だけに全てを注ぎ込んだ意思のあるプレイだったと思います。

また同時に、私は心の底から胸を撫で下ろしました。
もし勝負を受けられていたら、70%の確率で負けていたのですから・・・

加えて、ポーカーはいかに「レイズ」をした人が強い立場になるということを見せ付けた瞬間でもありました。

「J,J」の手札はテーブル上に見せてフォールドされたため、観客席からも「おおっー」とどよめきが出た位です。それほどタイトなプレイでした。

この恐怖の綱渡りを何とか渡り切った数回後のゲームで、とうとう大きなチップの移動が起きました。

CO(カットオフ)のポジションに居たボウズ君が、徐々に減ってきた持ちチップを意識したのか「レイズ」でスチールを試みた所、BB(ビッグブラインド)の女性に「コール」され、勝負が勃発してしまったのです。

《プリフロップの勝率》
 ボウズ君:A,3(勝率30%)
 女性:A,Q(勝率70%)

しかし、ボード(場札)には有効なカードは現れず、そのまま高位の手札を持った女性が勝ち、ボウズ君のチップが約10,000点にまで減ってしまいました。

こうなると、ボウズ君は焦りに翻弄されます。

次のハンドで慌ててオールイン 。
ビッグブラインドの自分の手札を覗いてみると、1枚目が「10」そして2枚目が・・・










なんと「10」で即座に「コール」を宣言!!
とうとう、この胃の痛くなるような試合に終止符が打たれようとしています。
観客からも「いよいよか」という、どよめきが起き、場の熱気は一層高まりました。

《プリフロップの勝率》
 自分:10,10(勝率70%)
 ボウズ君:A,5(勝率30%)
  ※スーツは特に影響なし

まず、最初の場札3枚(フロップ)が開示されます。

そのカードは何と「J, 10, 9」

3枚目の「10」が出現し、セッツ(スリーカード)が完成
周りの観客からは「これで決まった」という騒然とした雰囲気になり、自分もようやく全てが終わるという安堵の気持ちに包まれつつありました。

《フロップの勝率》
 自分:10,10(勝率97%)
 ボウズ君:A,5(勝率3%)
 場札:J, 10, 9
  ※スーツは特に影響なし

しかし、ポーカーはそんなに甘いゲームではありませんでした。
この後、とんでもない展開が目の前で起きるのです。










次の場札(ターン)に「Q」が配られ、何と彼に逆転の可能性が生まれたのです。

《ターンの勝率》
 自分:10,10(勝率86%)
 ボウズ君:A,5(勝率14%)
 場札:J, 10, 9, Q
  ※スーツは特に影響なし

最後のリバー札が「K」(残り4枚)ならボウズ君の逆転勝ち(A-K-Q-J-10のストレート)、「8」(残り4枚)なら双方引き分け(Q-J-10-9-8のストレート)、それ以外の36枚の札は全て私の勝利でゲームセットです。

そして、運命のリバーが開かれます・・・










そのカードは・・・・・・










何と「8が姿を見せたのです・・・

ここまで追い詰めたにもかかわらず、今回の勝負は結局引き分け(双方とも「Q-J-10-9-8」のストレート)となってしまい、最初の優勢だった状況は全てかき消されてしまいました。

正直この展開には一瞬焦りました・・・

最初「7割勝ち」の状態を「勝率97%」まで引き上げたはずなのに、負けの可能性が出現し、辛うじて引き分けに終わったのですから。
ボウズ君の持つ運気の強さと自分の勝負弱さが一つの形となって現れた瞬間だったようにも思います。

しかし、焦りは長く続きませんでした。
一度2,100点まで落ちに落ちた身です。
それを乗り越えたからこそ、今の自分が居るのです。

次のチャンスをしっかりと待ち、それで負けるなら悔いは無いと自分に言い聞かせ、今回の奇跡的な引き分けで周りがざわめく中、ストレートを構成したテーブル中央のコミュニティ・カードを一人じっと見つめていました・・・

そして、期せずして最後のチャンスは訪れたのです。

終焉に続く・・・

次に進む
目次へ戻る


Monologue Top